最近の若い者は仕事を選り好みして、やりたくないことから逃げている…こうした嘆きは実はどの時代にもありました。管理職、リーダー、上司、先輩として、いままでに数多くの愚痴をこぼしてきたこともあるのでは?
でも、一度でも考えてみたことはあるでしょうか?
『やりたくない仕事をやらなかったら、果たしてどうなるのか?』ということを。
いやまぁ、なかなか難しいですよね。仕事なんだからやらなきゃいけないと思っているわけです。やらなきゃいけない仕事と思っていることを「やらないとしたら?」なんて考えるだけでもブレーキがかかります。
非常識、迷惑をかける、自己中、今までやってきた自分を否定している気分…など「やらなきゃいけない理由」は腐る程出てくるわけですが、一旦、それはそれで置いておいて。空想でも妄想でも仮想空間でもなんでもいいので一応、考えてみましょう。
「それ、やらなかったらどうなるか?」
以前にも登場しているある相談事例、再登場です。
管理職として毎日奮闘していた彼はある不満を抱いていました。最初は「仕事に行きたくない」から始まり、1on1面談の中で「人の代わりに人の仕事をしている自分」や「仕事の拘束時間に縛られている自分」や「言うことを聞かない、周りに迷惑をかけている部下と関わらなければいけない自分」が特に「嫌なんだ」というところまで見えていました。
そこで下記のように「やらなかったらどうなるか?」と妄想してもらいます。
▼ 人の代わりにやっていた仕事をやらなかったら?
→その仕事は誰もやらないので、迷惑がかかる
→自ら率先して仕事をすることで職場の雰囲気を良くしようとしていたので、雰囲気が悪くなる
▼ 時間に縛られている自分を解放したら?
→「管理職のクセに、先に帰った」と部下に思われる
→それが原因で、部下の士気が下がる
→勤務時間が給与に反映するかも?(上からの評価が気になる)
▼ 迷惑をかけている部下と関わらなかったら?
→ますますその部下が周りに迷惑をかけるようになり、全体の士気が下がる
→部下本人のためにならない
やってもやらなくても、実は問題は解決していない
そうすると、こんな感じで「やらなければいけないと感じている仕事をやらなかったら、当然ダメになる」という答えが出てきますね。
ここで彼は、あることに気づきました。
自分が「やらなければいけない」と感じていた仕事をしていても、それを「やらない」としても【根本問題の解決にはなっていない】ということに。
つまり
・ 部下の仕事は、本来、部下にやらせるのが管理職に求められた仕事だということ
・ 職場の士気が下がるのは、部下の代わりをやめたり、効率よく仕事をして自分が先に帰ることが原因なのではない、ということ
・ 周りに迷惑をかけている部下に対して、これまで管理職として厳しさを持って接してこなかったこと
など、「やりたくない仕事をやらない」という一見現実離れした考え方をしてみたところ、問題の根本という本質に辿り着いたということなのです。
自己中だとか、人からどう見られるかとか、○○しなければ、△△するべき、などの思い込みから視点をズラすことで今まで蓋をして逃げ続けてきた解決しなければいけない根本問題、自分が本来やるべきことが浮き彫りになってくる。事実と思い込みや感情を分けて考えれば「やるべきこと」が見えてくるのですから、あとはそれを「どうやるか」具体策を考えるだけです。
「やりたくない仕事はやらない人」への対処にも応用可
今回は「やらなければいけない」と思い込んでパフォーマンスを下げてしまっていた事例で考えましたが、「やりたくないことはやらない選択をしがちな部下」など困ったちゃんへの対応にも応用が利きます。大事なのは『何を』嫌だと思っているのか掘り下げることと、部下がどのような思考の傾向(思い込み)を持ってその選択をしているのか?などのパターンを知ることです。
事例の管理職の彼は「○○するべき」などの思い込みが思考の傾向にあるのがわかります。
例えば「やりたくないことはしない」と選択しがちな人には、掘り下げて話を聞いてみると「事実よりも大変そうだと思っていた」「それをすることで評価が下がってしまうと思う(結果を出すことへのプレッシャー)」などの思い込みが隠れていることがあります。つまり、その思い込みを取り除くことができれば「やりたくない」が「やってみる、やれるかもしれない」に変わる可能性があるということですよね。
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このあたりは、上司の「コミュニケーション力(傾聴力、思考の傾向パターンの分析力)」などが深く関わってきます。
部下自身も気付いていない「心の内」を引き出すコミュニケーションは、上司として身に付けておいて損はないスキルです。