ジョブクラフティングの考え方-会社と従業員の「やりたいこと」は合わないから

近年は、仕事にやりがいを求める人も増え、声を揃えて「やりたいことを仕事にする」ことの重要性にフォーカスが当たるようになりました。職場のマネジメントにおいて「本人のやりたいこと」を叶えられるキャリアビジョンを提供することは、以前にも増して必要不可欠です。ですが上記の例のように「従業員のやりたいこと」と「会社が求めていること」が乖離しているケースも以前に比べ増えてきている現状なのです。

さて、どうマネジメントすれば良いのでしょうか?

従業員に「やらされ感」が生まれるのはなぜか

あるお店のリーダーは「やりたいことがやれない」と職場環境に不満を抱いていました。
上司が何をやりたいと思っているのかを問いかけると、「裏方業務をしていたい」「自分は上に立って引っ張るのは苦手だから」との答えが返ってきました。

リーダーとして求められることの中にはもちろん裏からチームを支えることも含まれています。ですが担ってほしい役割はそれだけではありません。オモテだって先頭に立ち、チームを引っ張ることも必要。でもこのリーダーは「裏方こそリーダーの仕事、それをやりたい」と思っている。

本人のやりたいことは叶えてあげたいけれど、求められる役割には足りない…どうしたものかと上司は頭を抱えています。

「上に立つのが苦手」と考えている人にとって、立てた戦略を部下に落とし込み「やるぞ」と奮起させることや、自ら率先して現場に立ち自分の背中で模範を見せること、チームの成果に対して責任を負うことなどは「できることならやりたくないこと」になるのかもしれません。そうすると従業員は「やりたくないことを求められている」と感じてパフォーマンスが下がり、会社は「やるべきことを果たしていない」と感じて評価を下げる。

いわゆる「やらされ感」の完成です。

この悪循環が「自分のやりたいことを(別に)見つけないと」といった考えを増幅させているのかもしれません。それは、自分のやりたいことが「会社が求めることの中にはない」という価値観をベースとしている可能性があるということです。

確かに、会社が求めていることと従業員の興味関心・価値観・能力がぴったりと一致することは少ないかもしれません。つまり、会社の「やりたい」と従業員の「やりたい」は、往々にして合わないものだということなんですね。

「やるべきこと」と「やりたいこと」が一致しない状態

だからといって、やりたいこと「だけ」を仕事にする(やりたいことしかやらない)という考え方も、働く上ではかなり偏った価値観と言えます。しかし、なぜ従業員のやりたいことは、会社として求めていることの中にないのでしょうか?つまり「やるべきこと」が「やりたくないこと」とイコールになっているのはどうしてだと思いますか?

例えばダイエットをするにはどうすればいいかを考えると、食事の質向上や量の制限・体を動かして代謝を促進する・筋肉を鍛える、などがあります。どれもこれも我慢や努力などが必要で、つまり「やるべきこと」はリスクを伴うわけですね。

こんな風に、やるべきこと・求められることには『リスクを背負う羽目になる』といったニュアンスが込められているような気がしてなりません。そして「やりたいこと」はなんとなく、その『リスク』が少ないように思える(我慢してまで痩せたくない、という心情がまさにそれですよね)そうすると「やるべきこと・求められること」と「やりたい」は遠い、と結論づけてしまいがちです。

ですが、どうしてダイエットに我慢や努力が必要なのか?を考えると、もちろん「痩せたい」「健康のため」などの『欲求』があるからです。リスクの中には、そもそも「やりたい」が含まれているのですよね。どうしても「我慢してまで痩せたくない」という価値観が強いなら、痩せることを諦めればいいだけです。痩せない代わりに「食べたいものを好きなだけ食べられる・ラクできる・我慢しなくて済む」といった欲求が満たされるはずです。

ですが、リスクを負ってはじめて欲しいものが手に入ります。何かを手に入れるには何かを捨てなければならない。
特に仕事においてこの考え方が抜けてしまうと、やりたいこと探し(自分探し)、頑張っているのに会社から評価されない、役に立っている実感が持てない、やりがいがない…といった不満につながります。ダイエットの場合と違い、仕事には成果が求められます。「努力してまで成果はほしくない」といった価値観は、すぐに「必要とされない人」もしくは「それ相応の評価しか得られない人」となってしまうのが仕事です。

言い換えると、職場にはそうした『背負うことのできるリスク』がごろごろ転がっています。
リスクを取ることで欲しいものが手に入るチャンスがあるのが「仕事」なのではないでしょうか?

ジョブクラフティングを目指そう

「やりたいこと」は何で構成されているか?というと、先ほども少し触れた【興味・価値観・能力】です。
面白い・知りたいと思えること、大切に考えていること、そして「できる」と思えることが合わさったものが「やりたい」という欲求と結びついています。

仕事において求められる役割・責任・成果と、従業員の興味・価値観・能力が、ピッタリ合っていることは少ないとお話ししましたが、合わないからと言ってハナから「別の場所」に合致を求めようとするのは会社と従業員双方にとって必ずしも良いこととは限りません。

そこで今、重要視されている考え方のひとつが「ジョブクラフティング」
自分と仕事の両方を大切に考え、どちらにも「価値」を見出せるような働き方を、働くひとりひとりが主体的に考えていこうとするものです。

双方が「枠」を広げていけば、会社と従業員は合致できる

多様な働き方を認める取り組みが広がってきています。
副業OK・テレワーク・時短勤務などもそうですし、さまざまなポスト、役割、業務分担などによって「やるべきこと」の枠を広げ、従業員の個性に合った仕事を用意する取り組みも、これからますます増えていくでしょう。会社が従業員の多様な【興味・価値観・能力】に合うよう「やるべきことの枠」を広げていくことに取り組めば、ひとりひとりにとって働きやすい職場が作られていきます。

でも、枠を広げなければいけないのは会社側だけなのでしょうか?
「自分に合う仕事がない」「やりたいことができない」と嘆き、不満を発し、求めていれば、欲しいものが手に入る?
そうではないはずですよね。

働く人が、自分の興味を広げる、価値観を広げる、能力を上げることによって、会社が求めている「やるべきことの枠」に重なるよう努力することが、必要とされ、役に立つ実感を得ることにつながるはずです。やりたいことを仕事にするとは、やりたいことを「増やし、広げる努力」のことを指すのではないでしょうか。

自分の枠(興味・価値観・能力)に会社が合わない/会社が求めている枠に従業員の個性が合わない、といった狭い考え方ではなく、お互いが持っている枠を「広げていこう」と考えていくならば、従業員はやりたいことを仕事にでき、パフォーマンスの高い従業員がもたらす成果を会社は受け取れる。理想は高いですが、追求していく価値のある考え方だと思います。

会社は「やりたくないことを求めない場所」ではない

冒頭のリーダーは「裏方をやりたい」と話していました。裏方業務をやるなと言われているのではありません。「それ以外の仕事や役割、責任を求められること」に不満を持っていることが推測されます。つまり「やりたいことができない」のではない。このリーダーの主張は「やりたくないことを求めるな」ということになるでしょう。

もしも、興味・関心・能力の枠を広げ、苦手なことにチャレンジし、リスクを背負うことでリーダーとして必要とされる人物になろうと努力するならば、周囲からの評価を得るという「やりがい」が見つけられるかもしれません。マネジメントは、その可能性、別の視点を見せてあげることなのだと思います。つまり従業員の興味・価値観・能力の「枠を広げる支援」をすることです。

優しく、人を思いやる気持ちの強いマネージャーは「本人の希望通りにしてあげたい」と考えてしまいがちです。
冒頭のケースで言うならば「裏方だけを求めるわけにはいかないだろうか?」と考えてしまう。人手不足のリスク、人間関係のこじれなどを避けるために、従業員の価値観(だけ)に合わせたマネジメントをしてしまうケースも意外に多いのです。

ですが本来のマネジメントは「会社が求めること」と「従業員のやりたいこと」をつなげることです。
成果を上げるという会社のミッションのために、従業員の【興味・価値観・能力】の成長を支援するのがマネジメントの役割だからです。

「やりたくないことはできるだけさせたくない、それが従業員の【やりたい】なのだから」こうした価値観を持っているマネージャーは、まず自分自身の価値観の枠を広げていかないといけません。

ほんとうの働き方改革は、働く人ひとりひとりが実施する

そして働くひとりひとりも「やりたいことを提供してくれる環境を求める」考えを捨てて、自分からその環境を作っていく考えが求められていきます。苦手なことにチャレンジしてみる、言われたことに期待以上に応えようと努力する、外の世界に触れ興味や関心を広げる、他者の意見を受け入れてみる、などにより、自分自身の枠を広げてみようと考えることがその第一歩ではないでしょうか。

『過去や今現在』興味のあること、大事にしていること、できることだけで必要とされたい、と言う考え方は、これからの時代に合いません。仕事はますます分業され、機械ができることは機械がやる、外注できるものは外注する、といった考えがますます進んでいきます。

知らないことに興味を持つ、新しい考えを柔軟に取り入れる、できることを増やしていく。
そうやって自分自身の枠を広げ、作り上げていこうとする姿勢を持った人が、これからの時代に生き残っていく人なのだと思います。

やるべきこと・求められることと、自分の興味・価値観・能力が合わさったものが「意思」つまり「こうしていこう」と決めることになるはずです。誰かがそれを提供してくれるのを待つのではなく、自分の手でそれを作っていこうとする心構えを持つことが、ほんとうの働き方改革なのだと思います。

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