【職場の人間関係の問題】マインドが下がった社員の辞める前兆:承認欲求編

今の時代、どの中小企業も人材不足感を感じながら日々戦っています。生産性の向上・EXやロイヤリティの向上・採用活動注力…さまざまな策を打ちながらもやはり「人が足りない」感覚が漂っている。現実的に「人がいない」のではなく、不足している「感覚」というのがポイントです。人員数は充足していても非生産的であれば「足りない感じ」がします。またたとえ採用が順調に進んでいても早期離職とのサイクルが早ければ「いつも人がいない感じ」がするでしょう。

終身雇用が保障されていた時代から遠ざかってかなりの時間が経ちました。働く個人のキャリアの選択肢は多様になり、転職は昔に比べるとカジュアルでライトなものになってきていると感じます。ひとつの会社で正社員として長く働くという大切な価値観も残りつつ、複数のプロジェクトに関わる・フリーランス・兼業副業・ジョブホップなど多様な働き方に企業は対応していかなければいけない。

会社としてはやっぱり優秀な社員に長く働いてもらいたいですし、従業員から「ここで長く勤めたい」と思ってもらえるような求心力のある強い組織にしたい。だからこそ社員の離職には正面から向き合わないとなりません。

前向きな転職であれば、(えぇ、辞められちゃったら困る)という本音はあるにしても社員の新しいステップへの旅立ちを応援しようという気も少しは起こりそうなものですが、特に入社して1ヶ月〜3年程度の社歴の短い社員が「会社を辞めようと思うんです」と上司に言い出す前の兆候がわかれば、なにか打ち手もあるのでは?と考える方も多いと思います。

転職理由はさまざまありますが、中でもとくに実態が見えにくい「人間関係」「マインドやメンタル」を理由とした離職の兆候を逃さず適切なアプローチができるように、その前兆となる現象や社員の様子、そして「なぜ人間関係の問題はなぜ起こるのか」といった理由も含め、事例でご紹介したいと思います。

「認めてもらえない」満たされない承認欲求が理由の離職

ある上司は、前から様子が気になっていたある部下(Aさん)と面談をするとやはり「辞めようかと考えている」と申し出てきました。その理由を尋ねると「自分の能力ではこれから先一緒にやっていくのは難しい、と感じたから」ということでした。結論からお話しするとAさんは会社を辞めることになったのですが、上司は「もっとああすればよかった」「こうしておけばよかった」と後悔することになったそうです。

入社10カ月ほどで現れた「前兆」

Aさんはアラフォー世代。同業種・同業他社にて15年ほどキャリアを積んだベテランで即戦力として中途採用され、精力的に仕事に取り組み結果を残していました。上司のフォローもありキャリアを積んだ中途採用によくある既存社員との軋轢もなくすぐに周囲に溶け込み、取引先からの評判もよく、入社して半年が経過する頃には上司としてほっと胸を撫で下ろしていたそうです。

ところが、10ヶ月ほど経過した頃、不穏な兆候が見え隠れするようになりました。

①:他者に対してのネガティブ発言や攻撃的な自己防衛の態度
②:取引先からの「仕事に対する姿勢」に関してのクレーム
③:本人の口から「弱さ」の露呈、やる気や覇気のない仕事ぶり

①〜③へと段階的にそれは表面化し、態度や発言について当初上司は「何か、プライドに抵触する出来事があったのだろう」とAさんを尊重しながら言い分を聞きつつ面談をしていたそうですが、クレームに発展した際には事実確認の後、修正するべき点をAさんに伝えるなど適切に対処していると感じていたと話してくれました。

そして③へと事態は悪い方に進展し、Aさんとじっくり向き合わなければならないと覚悟を決めて臨んだ面談。そこで問題は以前からAさん自身が心の底で抱いていた根深い感情から生まれていたことが発覚します。

「あの人より評価されていない」「必要とされていない」

もともと「人に必要とされたい」「自分を認めてもらいたい」という強い気持ちがあったのは上司もわかっていました。実際にAさんが持つ良さが活かされている間は生き生きと仕事をしていた。ところがその気持ちには【今、自分が持っている能力で】人から必要とされるという条件が付いていたようだ、と上司は後に振り返ったと言います。

いくらキャリアを積んできたとはいえ、環境が変化すれば今までとは違うことを求められることもある。Aさんにはそれが「自分が感じる能力以上のものを求められている」と感じ、「このままでは”認められない”」「”できない自分”を周囲にさらしたくない」という守りの姿勢が表面化して、攻撃やクレーム、やる気のなさへと発展していったのだろうということが、面談を通して見えてきたそうです。

既存社員と比較し「自分は評価されていない」「必要とされていない」と口にするAさん。ただ周囲は「彼の能力以上のものを求めている」とも「評価していない」とも感じていませんでした。求めていた新たな課題も周囲から見た時にはAさんにその能力が間違いなくあると誰もが感じており、何よりも、それまで精力的にこなしていた「今までと同じ仕事」ができなくなっていたことにAさん自身は気付いておらず、取引先を含め周囲はその部分を指摘していたのです。

「できない自分」を見られたくない、「できる自分」で必要とされたい

『おそらく、難なくこなしているように見えた時のAさんも、今思えば内心では必死に自分の弱さと戦っていたのだろうと思います』と上司は言います。「できない自分と思われたくない」という気持ちと戦って、能力以上の頑張りをしていると自己評価していたのかもしれない。面談でのAさんの話から「これからまだ、これまでのような無茶な頑張りをしなければ評価や称賛は得られないのか」と捉えてしまい、投げやりになっているように感じたということです。

「必要とされたい」と思ったら「どうすれば必要とされるか?」を考えます。自分が「これを頑張れば周囲は認めてくれるはず」と考えていることが周囲が求めていることと食い違っていたら「これだけ頑張っているのに認めてもらえない」となってしまう。物事の捉え方のエラーが生じ、頑張りどころを間違えてしまっている状態です。

周りにいる人、置かれている立場や環境などが変われば当然「自分に求められること」も変わってくるはずですが、Aさんにはその変化を受け入れる準備ができていなかったのかもしれません。面談では上司自身の経験も事例に挙げてそのあたりを切り込んでみたものの、結局わかり合うことはできなかったそう。『対応するのが遅すぎた、もっと早く気付いていたらもう少しうまくフォローできたかもしれないのに、と後悔が残っています』と振り返ってくれました。

ほかにも、上司にできるフォローやアプローチはあったのか?

上司は後悔していると話してくれましたが、できるアプローチは最大限実施していたのではないかと感じます。

人の気持ちや行動は誰かが操作できるものではありません。自分で誰かから何かを感じ取り、それを噛み砕いて消化して何かしらの答えを出し、その答えをもとに行動を選択する。この「感じ取る」段階でゆがみ(エラー)が出てしまうのは誰のせいでもなく、本人が持っている認知のクセ・価値観などによる「物事の見え方や捉え方」の影響です。認知のクセや価値観の中身が作られたのは幼少の頃の体験かもしれませんし、キャリアを積む上で体験したもっと後天的な出来事かもしれません。

いずれにしろエラーが出た物事の見え方のままでは、誰が何を言い、何を働きかけてもゆがんだまま見えてしまいます。ちょうど色のついたメガネをかけているみたいに。そして悪いことに、その存在には自分ではなかなか気づけないのが常です。

「怖いから見たくない」という無意識の防衛が働く。
「今のままがいい」という安心安全の欲求が優先される。

上司自身もそこを理解していたので、Aさんがかけている色メガネの存在や、そのエラーの中身、どのように物事を捉え行動することが必要なのかを伝え続けましたが、やはりこればかりは他者が動かせるものじゃないということではないでしょうか。

厄介なのは、承認欲求が思うように満たされず歪んでいく時

自分を認めてほしいという欲求は誰もが持っています。
それが満たされない時は自分を守ろうとして、認めてくれない他者を責めたくなることだって誰でもあります。自分には価値があるという自尊感情が「自分を認めてもらえていない」と感じることによって傷ついてしまうからです。

けれど「認められない現状」には必ず理由があって、ほとんどのケースでそれは能力などの問題ではなく自分と周囲との考えのギャップが関わっています。「捉え方のエラー」のようなもっと小さなことかもしれません。そこに気付かないとどんどん傷ついていってしまい、傷つくから正当化させてしまう。人から承認をもらうことばかり考え、自分からは与えていない現状を見ないようにしてしまう。Aさんの例で言えば、他者への攻撃や自己防衛の姿勢などが表れた時、おそらくAさんはすでに自尊感情が傷ついた状態だったと推察できます。誰が傷つけたわけでもありません。物事の捉え方、認知のエラーが引き起こしているのです。

そしてこの、物事の捉え方や認知のエラーが、人間関係の問題を引き起こしているというのが事実です。

大切なのは、普段の定期的な面談と「変化に気づき一緒に受け入れる」関係性

ここまでこじらせてしまう前に…と今回の事例の上司は考えたそうです。最初の頃に「プライドが傷付いたくらい」と受け取るのではなく、部下の本音や弱い部分についても一緒に向き合えていたら、と。ただこれは本当に難しいと思います。なぜなら部下は上司に認めて欲しいのであって、認めてもらうために「弱い部分を出さないように」がんばって隠そうと、見せないようにしようとするものだからです。上司部下という関係の中で「弱いところを見せられる」のは上司側からも部下側からも作り上げるのには時間がかかります。

だからこそ、普段から「話せる関係性」を作っておくことが大切だと私たちは考えています。認知のエラー・価値観を変える・考えを改めるなど部下本人の課題に踏み込むことは誰であってもできません。本人にしか変えることができないのです。だからこそ、部下のささいなマインドの変化や上司が感じた違和感などを部下と話すことで、部下自身が気づきを得て、それ以上モチベーションやマインドが【下がり続けるのを防ぐ】ためです。

1on1ミーティング、部下との定期的な面談の役割は、そういうところにあると思います。

企業として上司として「人の弱さ」と向き合う

人間関係とメンタルやマインドは切っても切れない間柄です。そしてそれらと離職や休職、人材の定着は今後ますます深い関係になっていくはずです。日本全体が「ひとが中心となり活躍できる社会」を目指して進んでいますが、これまで以上に「人の弱さ」をしっかりと受け入れ向き合いながら新たな挑戦を続けていく企業組織が求められると思います。

「社員に長く勤めたいと思ってもらう」ために、リーダー、そして上司に求められる役割のひとつとして人間関係の問題への理解とその課題に向き合うこと、マインドの変化をキャッチし適切にアプローチするための定期面談の仕組み整備などは経営課題としても強化すべき部分ではないでしょうか。

職場のコミュニケーションを活性化させる方法

現場マネージャーと共に悩み、試行錯誤してきた6年間の人材育成におけるコミュニケーションノウハウを、実際の取り組み事例とともにご紹介。具体的な取り組み方や部下との関わりがうまくいかない理由、コミュニケーションを良くするための2つの前提など、「読めば明日、何をすれば良いかがわかる」37P資料を無料で公開中。